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日露戦争とセキュリティ・ジレンマ 横手慎二『日露戦争史』

横手慎二『日露戦争史 20世紀最初の大国間戦争』 中央公論新社 (2005/4/25)

 本書についても、すでに、きちんとまとまっている書評があります(例えば、『リアル読書ブログ』様)

■相互の誤解■
 本書のテーマは、日露戦争と、「日本の対露観とロシアの対日観とのずれ」といえるでしょう。二つの国家の互いの意図を、各々が読み取りきれなかったことが、戦争につながっていく。そのことが、この本を読むと理解できます。
 三国干渉の数年後に、当の遼東半島を租借し、南部の支線の敷設権まで得てしまうロシアの行動は、まさにその典型例でしょう。ロシアの南下政策は、それを恐れる日本側には、脅威となっていました。それをロシア側は、【たいしたことはしていない】として、理解していなかったのです。
 注意していただきたいのは、日本側もまた、ロシア側の意図を読み違えていたということです。ロシアの政策を日本側が、誤解(ないし、ずれた見解として受け止める)したことも、事実なのです。この戦争の原因は片方の責任によるではなく、むしろ相互のミス(「責任」という簡便な語は使わないでおきましょう)によるものというべきものでしょう。

■もどかしき「譲歩ライン」■
 ロシアは、戦争直前、日本側の主張に沿った「満韓交換論」に歩み寄った条約案を、現地に通達しています。しかし、そのときにすでに、日本が開戦決定後だったことはよく知られています。
 小村寿太郎外相が、ロシアに向けて外交関係の断絶を勧告した三時間後、ロシアとの交渉をしていた栗野公使より報告が来ます。 ロシア外相が私見として、「ロシア側が戦略目的で韓国領土が利用されないこと」、日露両国の勢力範囲の間に緩衝地帯を作ることを望んでいることを述べたことを、伝えるものでした。
 著者はこれについて、「小村としては、このような内容のロシア側回答を読んだとしても、やはり外交関係の断絶に進んだであろう」といいます。「日本側は戦争以外に有効な解決策を見出せなかった」と述べるのです(以上一一一、一一二頁)。小村及び首脳たちは、あくまでも、朝鮮の排他的な勢力権益を望んでいた、と。
 彼らの行動・交渉の間に生ずる思惑のずれは、後世からみると、その分かりあえなさがもどかしくなります。もちろん、このもどかしさを催させる出来事の、その当事者たちの立場を理解せずに、歴史を理解できるはずもありません。
 ただ、戦争以外に有効な解決策を見出せなかった原因が、小村外相及び政府の、彼ら自身が設定した譲歩ラインにあるとすれば、このラインをもっと下げてくれれば、と思われてなりません。ましてや、太平洋戦争への突入を招いた一端が、ルーズベルト大統領の陰謀やらでなく、東郷茂徳外相(及び政府)の設定した譲歩ラインにあったとすれば、なおさらです(この事柄についてはまた別の機会に)。

■セキュリティ・ジレンマの問題■
 本書では、そのような思惑のずれを説明するのに、国際政治学にある「セキュリティ・ジレンマ」という用語を用いています。これは、「対立する二国の間では、一方が自国の安全を増大させようとすると、他方は不安を増大させ、悪循環を生みやすい状況が生じる」ことを指します(一一二頁)。「ロシアが満州に入ったために、一方が朝鮮半島で安全を確保すると、他方が不安を増大させるセキュリティ・ジレンマを強く意識するようにな」ってしまった日露間にも、適応できるのです。
 この概念は、ほかの事柄にも用いうるものでしょう。例えば、ある国家が大国との直接交渉を狙ってミサイル(ないし人工衛星)を打ち上げたり、核開発を進めたとします。その国自体は、自国(あるいは上層部のみ)の安全を狙って行動しています。この場合はおそらく一対一の大国との差しの交渉によって、自国(あるいは上層部のみ)の安全を確保しようとするのです。
 ところが、そのことがその大国のみならず、ほかの国の安全を脅かしたとして非難され、ひいては、平和をうたう憲法を持つ別の国に、自国の「軍隊」(ないし「隊」)を強化させる動きや、核を保有させる言論・行動を催させるのです。そしてその国の積極的な反応がほかの国に……云々。
 この事例は、いうまでもなくフィクションなのですが、もしこの事例に当てはまる事態が現代の世の中に起こっているとすれば、実に不幸なことです。フィクションなら、上のとおり、話を途中で終わらせることができますが、現実に起こる歴史を、途中で終わらせることができる者はいないのですから。

TAG : 横手慎二 日露戦争 セキュリティ・ジレンマ 小村寿太郎

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