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グアムでポリネシアンダンスという不可思議 山口誠『グアムと日本人』(1)

・山口誠『グアムと日本人 戦争を埋立てた楽園』岩波書店 (2007/07)

■日本人が知らないもう一つのグアム■

タモン湾のホテル地区には、停電も断水もない。島経済の約七割を稼ぎ出す同地区だけは優先的にインフラが整備されている (p,iii)

 タモン湾とは、グアム島中部の湾で、日本人観光客のほとんどは、この周辺を観光します。その外には、ほとんどの人は出ません。ここで、停電も断水も起こらないのは、この場所が島経済にとって重要な場所だからです。
 島の他の場所、つまり一般の島民の暮らす場所は、どうなのでしょうか。グアム島の他の場所、日本人観光客が訪れない場所では、断水がよく起こります。特に日本の観光客がやってくるシーズンには、頻発します。観光客の泊まるホテルが、水を奪い、水道から水が出でなくなるのです。
 また、台風などの影響でインフラがストップするという影響もあります。死者が出たケースもあります。しかしグアム行政は、金を落とす日本人観光客のために、タモン湾周辺に予算を費やすばかりで、その分、それ以外の地域に還元されないままになっているのが現実です。これを「搾取」と表現するのはいいすぎでしょうか。

 公立学校の教員に支払う公的資金も、病院を増設する公共政策もなく、電気や水道を供給するインフラさえ自力で整備できないほど貧しい島から、人々が逃げ出している。 (163頁)

 人的なものも含むインフラ不足によって、島から人は逃げ出しています。例えば、高齢者たちは、不十分な医療しかない島を出て、フィリピンやアメリカ本土へ移り住まざるをえないそうです。グアム島は、人が死ねない島となっているのです。

 タモン湾で日本人観光客が落とす金は、ホテルや免税店を経営する母体企業が存在する海外へと流出してしまうため、グアムを素通りして、現地社会に十分には還元されない。 (160頁)

 さらに、島の経済を支える観光収入も、収入を得ているのは外資の企業であって、多くは海外へ流出します。このような経済形態は、まさに「植民地」といえるでしょう。(注1)
 にもかかわらず、日本の観光客のほとんどは、グアムの現地住民の現状を、知らずに帰国するのです。これは本書の著者自身もそうだったのであり(詳細は本書あとがきを参照)、ここにこうして偉そうにつづる人間もまた同じことです。
 日本人の知らない現実のグアムと、日本人がイメージする「南の楽園」グアムとのギャップ。本書は、この二つの回路を組み上げるための書なのです。

■グアムのポリネシアンダンス■

 ハワイアン音楽が流れ、アロハシャツを着た従業員(多くはグアムのチャモロ人ではなくフィリピン人の労働者)が働いていた。日系ホテルは、建築の時に伐採したグアムの椰子林のかわりに、グアムの外から持ち込まれたワイキキ風のビーチ・パラソルとデッキ・チェアを浜辺に置き、ワイキキ風の椰子を道なりに植樹した。 (111頁)

 グアムなのにハワイアン音楽にアロハシャツ、そしてハワイ風ビーチ。グアムなのに、グアムとは無関係なタヒチ人によるポリネシアン・ダンス。現地の人にとってはミスマッチだけど、日本人には気づかれない。ここにも両者の認識のギャップがあります。(注2)
 しかも、ホテルで働く従業員の多くは、グアム原住民のチャモロ人ではなく、フィリピン人です。フィリピン人の労働者の他には、他の島の出身者が、ホテルの労働者として雇われます。彼らは、低賃金で雇えるため、経営コストを落とすことができます。この分、日本の旅行者は格安で旅行できる、というわけです(175頁)。
 一方、チャモロ人たちは、グアムにある米軍基地で働いています。島の面積のうち3分の1を、アメリカ軍用地が占めています。基地関連の産業からの収入と政府からの補助金は、観光と並んで重要な島の経済基盤となっています。
 80年代に基地が縮小したため、観光に比べその位置づけは低くなったものの、現在でも島経済を支える柱であるのは変わりません。実質的に米国の「植民地」であるのに、親米的といわれるのは、こうした経済的恩恵が大きいと思われます。(注3)


(注1) グアム島は、経済的にだけでなく、政治的にも「植民地」といえます。
 1950年にやっと、グアム自治法が制定され、グアムは「未編入領域」となります。あくまで、アメリカ合衆国の「準州」であり、大統領選挙の参政権はなく、合衆国議会の下院でも、本会議での議決権はありません。税金を支払っているのに、選挙権がない。「代表なくして課税なし」が、合衆国の独立の原因ではなかったのでしょうか。この辺どういう感覚で、合衆国はこの措置を正当化しているのでしょうか。

(注2) ポリネシアは、「サモア・ツバル・トンガ等を含むエリア」であり、一方、ミクロネシアは「パラオ・ミクロネシア連邦・ナウル・マーシャル諸島・キリバスのギルバート諸島地域と、マリアナ諸島・ウェーク島で Guamはマリアナ諸島の一部」という主張を、「何故かGuam その6(オプション編)」(『welcome to field』様)という記事が、されています。ミクロネシアとポリネシアは、違う地域なのです。

(注3) 「日本からの観光客は、米国の植民地に作られた、日本人向けの仮想リゾート地で楽しんでいることになる。沖縄が微妙に重なって見えるのは私だけか」と、『読書日記』様の2007/11/07付けの記事には、書かれています。この書評は、きちんとまとまっているので必読です。
 米国基地と「南の楽園」イメージを売りにする観光という共通点があるのは、事実です。多田治『沖縄イメージの誕生』や『沖縄イメージを旅する』等の著作を読めば、瞭然としています。
 しかし、より着目したいのは、沖縄の基地移転問題において、グアム側の基地事情が日本のメディアによって考慮されることがないという点です。同じような構図を問題として抱える二つの島ですが、その立場の違いに、より明敏になる必要があるように思います。

(続く)

TAG : グアム カルチュラル・スタディーズ 観光 フィリピン 基地問題

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