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「休む時間」より「残業代」を優先する、日本という国 濱口桂一郎『新しい労働社会』(1)

濱口桂一郎『新しい労働社会 雇用システムの再構築へ』岩波書店(2009/07)

■「休む時間」より「残業代」を優先する、日本という国■

 健康のための労働時間規制という発想は日本の法制からはほとんど失われてしまったのです。こうした法制の展開が、労働の現場で長時間労働が蔓延し、過労死や過労自殺が社会問題になりつつあった時期に進められたという点に、皮肉なものを感じざるを得ません。 (39頁)

 これは、女性の労働に関する、著者の言及です。女性が、男性と同じ条件で働けるよう法的環境が整備されていく中で、見落とされていたものがありました。それが、「健康のための労働時間規制という発想」です。日本の労働法の流れの中で失われたものが、これです。では、「男性労働者のかなりの部分が法定労働時間をかなり超える長時間労働(25~44歳の男性の2割以上が週60時間以上労働)をしている」日本の労働環境に対して、どのような対応ができるのでしょうか(「働くことが得になる社会へ」『JP総研リサーチ』第8号)。
 詳細は、著者のブログに掲載されています(「労働時間規制は何のためにあるのか」)。「政治家やマスコミ人に限らず、労使や行政関係者までが、もっぱら時間外割増賃金をどうするかということにしか関心がないように見える」ことについて、著者は、「1985年改正、1997年改正により撤廃されることにより、女性労働者も男性と同様、無制限の長時間労働の可能性にさらされることになった。健康のための労働時間規制という発想は日本の法制からほとんど失われてしまったのである。」と指摘しています。
 健康のための休む時間ないがしろにしてでも、それを残業という割り増された金銭によって、それを正当化せんとするさまは、ある意味、「エコノミック・アニマル」の顕現といえるかもしれません(無論、「エコノミック・アニマル」という語の本義については承知していますが)。

 (引用者注:EU労働時間指令では)過労働時間の上限は四八時間とされています。(略)EU労働時間規制は、(略)それを超えて働かせることが許されない基準なのです。 (41頁)

 著者は、それが難しくても、「せめて一日最低連続一一時間の休息期間くらいは、最低限の健康確保のために導入を検討してもいいのでは」、と述べています。
 著者には、「過労死や過労自殺は一向に減る気配を見せず、特に若い正社員層における異常な長時間労働は、非正規労働者の増加と軌を一にしてますます加速している。労働経済白書によれば、25~44歳の男性で週60時間以上働く人の割合は2割以上に達している。週60時間とは5日で割れば1日12時間である。これは、1911年に日本で初めて工場法により労働時間規制がされたときの1日の上限時間に当たる。」という問題意識があり、「長時間労働を制限しようという政策志向はほとんど感じられない。」事への当然の怒りがあります(同上)。
 それにしても、命の大切さを誰もが肯定する日本において、なぜ、長時間労働への規制をはっきりと打ちだすべきという主張が、これまで主流とならなかったのでしょうか。人材派遣中堅・フジスタッフの堤ゆう子執行役員は、「母親層の就労促進を阻んでいるのは「長時間労働を前提とした日本の企業風土」と見ている。長時間の残業もいとわず働くことが職場への忠誠心の証しで、それと引き換えに出世が保証される暗黙の仕組みがあると分析する。」(「広がる働く女性の格差【上】 シングルマザー(2)」(『東洋経済オンライン』様))。
 日本では、企業が就労者と家族の雇用を保障するだけでなく、社会福祉的・社会政策的役割を果たしてきた分、その見返りに企業への忠誠心を求められます。そして、その忠誠心をあらわすために長時間労働が生じる、と考えられます。長時間労働が、忠誠心の表示となる以上、労働者側も、長時間労働自体の規制よりも、その忠誠心の見返りとしての金銭の割り増しを選好するようになった、と見るべきではないでしょうか。もちろん、もっと稼ぎたいという就労者と家族の経済的事情があるのも、無論のことですが。

(続く)


 (追記) 他の本書書評の中で、本稿の主題に言及しているものとして、アマゾンのbirdsongさんのレビューがあります。読んで共感いたしました。
 「不況時にクビにならないために、(主に男性の)労働者は目一杯過重労働せざるを得ない。でも労働者のもつ唯一の「資本」は自分の体なのですから、健康を害するような労働は体の切り売りのようなものです。それを「生温い」とか、「死ぬまで働け」とかいう風潮がある限り、「いのちと健康を守る労働時間規制」の重要性は減ることがないでしょう。」

TAG : 濱口桂一郎 労働 エコノミック・アニマル 長時間労働

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