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侯孝賢の『悲情城市』のはなし 本田善彦『台湾総統列伝』(5)

侯孝賢の『悲情城市』について■
 蔣経国は、70年代以降民主化を進め、国民党以外の政治勢力の活動も容認されるようになります。そして彼の死後、李登輝が政治的実権を着実に握ろうとしていた1989年に、公開された映画が侯孝賢の『悲情城市』です。87年にはすでに戒厳令は解除され、95年には、二・二八事件の犠牲者に対して李登輝が(皮肉にも、当時弾圧された側である彼が)、国家元首として謝罪することとなります。
 この映画は、日本統治の終わりから、中華民国の台北への遷都までを描いた映画で、台湾国内で二・二八事件を初めて公に扱った映画でした。田村志津枝『悲情城市の人びと』は、この映画を見る上で重要な著作で、「幌馬車の歌」という日本の歌を、なぜ銃殺される直前に台湾の青年が歌ったかを解き明かしています。著者が台湾各地を旅し、そのモデルとなった鍾浩東の夫人・蒋蘊瑜にも取材しています(曰く、このモデルとなった人物は、その歌を「日本の歌」とは知らなかったとのこと)。
 ただし、矢吹晋(前傾矢吹論文)によると、「この歌の秘密は、藍博洲の手紙「致田村志津枝小姐」(原載八九年一二月二五日『自立副刊』、のち『幌馬車之歌』に所収)ですべて解かれていた。田村は「既知」をあたかも「未知」のごとく扱うフィクションの旅を続けたことになる。」とのことです。もし、こんな俗流ドキュメンタリー的詐術を行ったことが事実なら残念です(文献とか研究論文などですでに答えが出ていることを、ただ追認するためにのみする旅とは、一体何なのか?)。
 さて矢吹は、この映画の意味の読み取れないシーンについて、「藍博洲の解説」を読んで、次のように言います。

戒厳令解除直後の台湾政治のなかで、最大のタブーに挑戦するための戦術なのである。映画は四五~四九年の台湾史だけでなく、五〇年代の左翼粛清(山村工作隊)をも描いている。にもかかわらず、字幕は国民党が大陸で敗北し台湾に撤退するまでの話としているのは端的な一例である。

そのシーンは、50年代の台湾における白色テロを暗示している、というわけです。50年代の白色テロは、国民党政府が台湾に撤退してから後に起こした出来事でした。二・二八事件と違い、部下に責任を「転嫁」できない出来事だったため、中華民国政府がこれを認めるのはさらに遅れることになります。(注1)
 個人的に、獅子舞が爆竹が炸裂するさなかに舞うシーンなどに見られるロングショットの距離感がやはり好きだなあ、などという自堕落な印象批評はここでは控えます。この映画で特に印象的なものの一つに、通訳を介しての会談のシーンがあります。
 長兄である文雄は台湾語(閩南語)で話して、これが一旦広東語に訳されて、これがさらに上海語に訳し直され、大陸から来た人間がそれを聞くわけです。同系の言語のはずが、二人も通訳を必要とするのです。
 よく知られているとおり、中国語の「方言」は、漢字という文字自体こそ共通するものの、方言が違うと相互理解はほとんど無理です。中国の方言は、おおまかに7つに別れます。台湾語は、その七大方言のうちの一つ閩語です。広東語は七大言語の一つの粤語、上海語は呉語です。みな方言が違うわけです(方言内部でも、相互理解が無理なほど異なる言語もあります)。
 大陸と台湾島に共通するようなリングワ・フランカはなく、このような事態となったわけです。なお、中華民国は1920年代以降、「国語」という、標準的な中国語の国語を作りましたが、映画の中の彼らは、この「国語」を使いませんでした。たぶん、この言語はあまり当時広まらなかったのだと思われます。
 以上、侯孝賢の『悲情城市』については、またの機会に触れようと思います。これとは別に、「90年頃、当時の台湾で売られている中華民国地図は、モンゴルが、「外蒙古」として、中華民国領だった」(158頁)ということが気になっているのですが(これは蒋介石の政治的理由がかかわっているといわれています)、これもまた後日とさせていただきます。

(了)


(注1) 国民党政権による「白色テロ」について、「歴史的文盲について」(『semi@aoao』様)は、周婉窈『図説 台湾の歴史』の書評において、「密告は功績になるから「でっちあげ」が横行したが、ひとたび疑いをかけられれば拷問が待っており、誰もが耐えきれずに自分を売り、家族を売り、友人を売ってしまう。それに自ら抵抗できないことが「白色テロ」の最大の恐怖だと著者は言う。だから家庭内ですら少しでも政治的な話題は避けられ、植民地時代の過去も個人の記憶に封じ込められる。」と述べています。

TAG : 侯孝賢 悲情城市 台湾 中華民国

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